福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)842号 判決
訴訟費用は第一、二審を通じて五分しその一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。との判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、控訴人が被控訴人を相手取つて提起した大分地方裁判所日田支部昭和二十五年(ワ)第一九三号強制執行異議事件につき応訴のため被控訴人にその主張のような損害を生じたとしても、右訴の提起と損害の発生との間には因果関係がないから控訴人にはその賠償義務はない。仮に因果関係があるとしても、被控訴人は前記訴訟の口頭弁論期日に出頭した旅費及び日当各二回分計金千五百円程度は訴訟費用として当然控訴人に対し請求できるのであるから、この分は本件損害額から控除さるべきであると述べ、被控訴代理人において、控訴人の右抗弁を否認し控訴人主張の前記訴訟事件の口頭弁論期日に被控訴人の訴訟代理人が二回出頭したことは争わないが、訴訟費用として請求し得べき費用を損害賠償として請求しても何等差支はないと述べた外、いずれも原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
三、理 由
被控訴人がその主張の日その主張の債務名義に基き訴外福島一に対する強制執行として原判決添附別紙目録記載の物件につき差押をなしたこと、控訴人が被控訴人主張のような理由によりその主張の日大分地方裁判所日田支部に右差押物件につき強制執行の目的物に関する第三者異議の訴(昭和二十五年(ワ)第一九三号)を提起すると共に、同支部から強制執行停止決定を得てその執行を停止したこと及び右強制執行異議事件は審理の結果被控訴人の勝訴に帰しその判決が確定したことはいずれも当事者間に争がない。
よつて先ず控訴人の提起した右強制執行異議の訴につき控訴人に不法行為の責任があるか否かについて按ずるに、その方式及び趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第三号証の一乃至四によれば、訴外福島一は被控訴人主張の債務名義に基く本訴物件に対する強制執行を免れようと企て、控訴人不知の間に本訴物件を控訴人に売渡した上改めてこれを控訴人から賃借している旨虚偽仮装の公正証書を作成したが、控訴人は後に右訴外人からこの事実を聞知しその間の事情を十分知つているに拘らず、被控訴人から本訴物件に対し強制執行を受けるや、にわかに前記強制執行異議の訴を提起したものであることが認められ他に右認定を覆すに足る証拠はない。そうすれば右強制執行異議の訴は控訴人が本訴物件に対する被控訴人の強制執行を故意に妨害するためなした不法行為に外ならないから、これにより被控訴人の蒙むつた損害は控訴人において賠償すべき責任があるものといわなければならない。
そして原審における被控訴本人訊問の結果及びこれにより成立を認め得る甲第一号証第二号証の一、二によれば、被控訴人は前記異議事件に対し応訴の必要上、自己の使用人たる訴外内海公を福岡市から日田市へ事実調査のため数回赴かせた旅費及び日当として同訴外人に対し実費金五千六百四十円、訴訟代理人たる弁護士上野開治に対し着手金及び成功報酬として計金二万円を支出せざるを得なかつたことが認められ、右出費は控訴人が理由なくして前記執行異議事件を提起した結果、被控訴人が蒙つた損害額であると解するのが相当である。
控訴人は右強制執行異議の訴提起とこれに対する応訴のため被控訴人の蒙つた損害との間には因果関係がないから控訴人にこれが賠償の責任はない旨抗弁するけれども、被控訴人の蒙つた損害は控訴人の提起した不法な訴が原因をなしたもので、一般的に観察して本件のような場合同様の結果たる損害を生ずる可能性があるものと解されるから、本件異議の訴提起と損害発生との間には法律上相当因果関係があるものというべきで、控訴人の右抗弁は採用できない。
ところで被控訴人は前記異議事件の訴訟代理人たる弁護士上野開治に対し口頭弁論のため受訴裁判所に出頭する旅費及び日当として二回分計金六千円を支払つたので、これをも右異議事件に対する応訴のため被控訴人の蒙つた損害である旨主張し、控訴人は右口頭弁論に出頭のため要した旅費及び日当は訴訟費用として当然控訴人に請求できるのであるから本件損害額から控除さるべきであると抗争するから、この点につき審究するに、原審における被控訴本人訊問の結果によれば、被控訴人が右費用を支出したことは一応これを認め得られるけれども、元来これらの費用は民事訴訟費用法の規定に従い権利の防衛上必要と認められた金額の範囲内において訴訟法上の権利として控訴人に対し別途に請求すべきで(前記甲第三号証の四によれば訴訟費用は同事件の原告である本件控訴人の負担となつている)本件不法行為に基く私法上の損害に含めてこれが賠償請求をするのは失当であると解すべきであるのみならず、前記異議事件の受訴裁判所の所在地たる日田市に事務所を有する弁護士が在住すること及び被控訴人の選任した弁護士上野開治が福岡市にその事務所を有することはいずれも当裁判所に顕著な事実であるところ、被控訴人が右のように、ことさら受訴裁判所の所在地以外の上野弁護士を訴訟代理人に選任したため生じた費用は、それが権利の防衛上必要で止むを得なかつたことの特別の事情の存することが認められない本件においては、控訴人の前記異議事件提起の結果直ちに被控訴人の蒙つた損害とはいい得ない。
そうすれば被控訴人が控訴人に対し金二万五千六百四十円の支払を求める部分は正当として認容すべきであるが、右に超過する被控訴人の請求部分は失当として棄却すべきである。それでこれと一部趣を異にする原判決はこれを変更すべきものとし民事訴訟法第九十六条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 野田三夫 川井立夫 天野清治)